斬らなイカ?

武術・武道・日本刀とか。

バートン・リチャードソン師のJKD講習会に行ってきました

JKD Unlimitedのバートン・リチャードソン師の来日講習会が開催され、うち3日だけですが参加してきました。

www.burton2016.info

終始なごやかな雰囲気で進行し、バートン先生のジョークや、フィリピン武術の伝説級マスター達のハートウォーミング・サツバツ・ストーリーが聞けたりと、武術スキルの講習にとどまらない、たいへん楽しい時間を過ごせました。

詳しい講習内容のレポートは雑誌等に出ると思うので、以下、言葉や感想中心で。

JKDカリ編 〜トレーニング&コンディショニング〜

カリ(アーニス、エスクリマ)の、個人・対人練習について。

  • "practice makes perfect"ではなく、"practice makes permanent"なので、正しく練習しないと悪いやり方が身についてしまう。正しく練習すること。
  • 個人練習では、技の組み合わせ・連携(coordination)を練習する。ある状況や体勢で取ることのできる選択肢を増やす。
  • スピード、ストレングス、パワーは個人練習で向上するが、相手が上回ることもある。なのでレバレッジを効かせるためにテクニックを磨くこと。
  • 対人練習(safe sparring)では、タイミングなどの感覚を身につける
  • 敵がナイフ、自分がエンプティハンド(無手)の場合は、まず逃げること*1。次に武器になりそうなものを探す。最後の選択肢としての対処法

バートン先生の技には、剣術っぽさを感じました(スタンス、ステップ、ブロック等)。カリの中でも剣術に近い(スティックに特化していない)『カリス・イラストリシモ』のアントニオ・イラストリシモ師に師事したとのことで、納得。

JKDシラット編 〜トレーニング&コンディショニング〜

シラットの基礎的な動き、練習方法について。こちらはほぼ対人での練習。

  • シラットは多人数の敵を想定しているため、距離を取っての対峙を長引かせずに間合いを詰め(エントリー)、クローズな距離で素早く決着させる
  • 同様の理由で、テイクダウンしたときもマウントしないで素早く打撃等入れて離れる
  • ムエタイはシラットから派生したもので、打撃技の基本は同じ
    • ムエタイは組んだり攻撃箇所の制限があるため、回し蹴り、膝蹴り、肘打ちなどはよりインパクトを与える打ち方をする
    • シラットでは回し蹴りから間合いを詰めるし、膝は顔面や金的に入れるし、肘打ちも連打したり頭を取りに行ったりする

JKDフィリピン武術カリ編 〜ストラテジー&タクティクス〜

チェックメイト(相手から反撃されず、決定打を与えられる状況)を作る方法、考えかた、その練習。

  • センシティビティを養う
  • 対人練習には、静的ドリル(static drills)と、スパーリングが両極にあるが、その中間、流動的ドリル(fluid drills)が重要
  • 流動的ドリルは、打太刀も動きを止めないで動き続ける。はじめパターンに従って行ない、後にパターンを変化させたり、パターン無しで行なうようにする
    • 空手の約束組手は、静的ドリルと流動的ドリルの中間くらいの印象
    • 正確に打つべきところ*2を打つこと
  • ドリルとスパーリングは補完関係にある

JKDコンセプト編

東京開催5日間の総括と、武術・武道とどう向き合っていくか、といった話。

以下の説明をはさみながら、スパーリング形式の練習をいくつか。スパーリングは、ゆっくり(half speed)、笑顔で、楽しく。

  • 例えば、相手の左ジャブを防ぎ、右手の動きを封じる動きがある。ここまでがJKDで決められているパターン。以降の動きは各個人が得意とする攻撃をすればいい。それがJKD。
  • キックボクシング、クリンチ、グラウンド、そして3つのスタイルのトランジション。自分の得意なところで戦う
  • 他流派の技が「正しくない」と判断し侮るのは危険。武器を想定しているかも
  • リスペクトは大事。しかし過剰なリスペクトは疑問を持たなくなり、それは健全ではない
  • 生徒から先生へのリスペクトだけでなく、先生も生徒をリスペクトしロイヤルティを持つべき
  • 科学的手法。ある技についての理論があり、スパーリングで有効性をテストし、結果を受けてアジャストする、を繰り返す
  • 勇気が必要。失敗の恐れがあっても試す、失敗しても改善してまた試す。恐怖を感じないものは挑戦ではない
  • Be your best!

所感

バートン先生の英語は聞き取りやすく*3、その上、常に交代で翻訳にあたっていただけるという至れり尽くせり。

はじめ「JKDをやっていない自分にはハードル高いのでは」と思い躊躇していたのですが、武術全般にも通ずるコンセプトが貫かれており、武術を学ぶ立場としても教える立場としても、得るものがありました。

昨年に続いて2回目の開催とのことですが、今後も続いてくれると嬉しいですね。

なお、初日のゲストとして、古武道の甲野善紀先生、柔術家の中井祐樹先生が来られていました。いずれも初めて生で拝見。

関連情報・書籍

バートン先生

バートン先生の近著(Kindle版あり)*4

Silat for the Street: Using the Ancient Martial Art for Self-Defense in the 21st Century (English Edition)

Silat for the Street: Using the Ancient Martial Art for Self-Defense in the 21st Century (English Edition)

昨年の来日講習会の記事が掲載されている『月刊 秘伝』の東南アジア武術特集号

月刊 秘伝 2016年 03月号

月刊 秘伝 2016年 03月号

昨年の来日時のバートン先生インタビュー記事(全5回)

コ2【kotsu】特別インタビュー バートン・リチャードソンに訊く フィリピン武術とJKD

カリス・イラストリシモ

カリス・イラストリシモのほか、色々な流派が紹介されています。DVD付き。

公開!フィリピン武術の全貌 【DVD付】 (BUDO-RA BOOKS)

公開!フィリピン武術の全貌 【DVD付】 (BUDO-RA BOOKS)

カリス・イラストリシモの教本(Kindle版あり)

The Secrets of Kalis Illustrisimo: The Filipino Fighting Art Explained (Tuttle Martial Arts)

The Secrets of Kalis Illustrisimo: The Filipino Fighting Art Explained (Tuttle Martial Arts)

*1:お約束といっていいことなのですが、やはりここに言及(しかも繰り返し強調)されるのは、師の誠実さの現れだと思います

*2:スティックでは関節や骨を狙う

*3:私のボキャブラリーが小学生レベルなので、聞き取れた単語の意味が理解できたとは言っていない

*4:ペーパーバックにサインいただきました!