斬らなイカ?

武術・武道・日本刀とか。

大槍(競技)体験

台湾発祥でスポーツとして行われている『大槍』の個別指導を受けてきました。

『大槍』は、3mの槍を使う競技で、伝統武術で大槍を使う八極門の方々が競技化したものとのこと*1。 有効なのは突きのみで、得点は頭部・胴部が2点、ほかは1点。11点先取で勝ち。

槍はカーボン製で軽く(それでも重心が遠いのでそれなりの重さは感じます)、中継ぎ式で持ち運びに便利。 穂の部分にはクッション。試合ではフェンシングのような接点センサーが付くそうです。

競技エリアは2m x 8mくらい? で、回り込む動きはないため、伝統武術の人はステップを踏まない、MMAジムでやっている人はステップを踏むという二系統あるそうです*2

大槍

形意門の槍術を練習したことはあったのですが、大槍は3mあるので構えかたから違いました。完全に半身、後ろ側の手は石突にかかるくらい。足幅は広め*3

突きかたは伝統武術における「扎」とほぼ同じ。 構えからまっすぐ突く、穂先を下げて相手の槍の裏にまわして突く、下げて下胴を突く、の三種を練習。

防御は、表からの突きには時計回り、裏には反時計回りに槍を動かして(腕でなく後ろ足も使う)受け流すのが主で、槍も軽いのでそれほど手の内を効かせなくてもさばけそう。

長槍(スポーツチャンバラ

スパーリングのためもあって、スポーツチャンバラの『長槍』も練習しました。

こちらは長さ2m弱ほどですが、構えは同じく半身。 突くときの前手の位置に制限があり「扎」のように伸ばして突いてはいけない*4、打つ(斬る)も有効(打突部位に制限があったかも?)。

防御は大槍よりさらに軽く受け流す程度*5。前手への打突に対する受け、足に対してはいわゆる「攔」で防御、を練習。

ここでステップワークも練習。ステップを踏む系をほぼやってきていないのでつらい。身体が重い(物理)。

最後にスパーリング。世界チャンピオン強い。勝つどころか打ち込める気がしない*6。そしてステップワークなしではスピードで勝てないことも実感。

所感

武術のスポーツ化には色々意見があるとは思うのですが、個人的にはスパーリングはあったほうがいいし、そのために何かしらルールを作るのであればスポーツに振り切るのはありだと思っています。

忙しかったりコロナ禍だったりで全く身体を動かせていなかったところ、Twitterで日本大槍協会の個別指導のことを知って劇薬のつもりで申し込みました。 2時間で一通りの基礎を教えていただき、スパーリングもでき、また競技としてのルールその他のお話も色々聞けて、とても良い体験でした。ありがとうございました。

槍の操法は慣れとして、防御とステップでの回避をきちんと使い分けられるようにするのが当面の課題*7。 どこまで時間を取れるかわからないのですが、できれば継続して練習していきたいと思う競技でした。

日本大槍協会

代表のかたが、銃剣道スポーツチャンバラと経験してきて(そして世界チャンピオンになり)、台湾の団体のかたから声がかかって大槍をはじめ(そして優勝し)、今年2月に日本大槍協会を設立されたそうです。

設立して早々コロナ禍で団体練習できなくなり、今は個別指導(予約制)をされています。

初心者歓迎とのことなので(上記は決まったカリキュラムではなく、個々のペースに合わせてくれるそうです)、気になったかたはぜひ @Japan_daqiang までDMしてみてください!

参考

*1:六合大槍とか有名ですね

*2:あくまで競技の世界としてですが、直近の大会ではステップ踏む派が優勢だったとのこと

*3:癖で前足が敵のほうを向いてしまう傾向があったのですが、ステップを踏むのに不向きなので45°くらいが正しい。あと腰が高くなりがちなのも要修正

*4:繰り込み突き」と言うそう。2016年から禁止された模様。参考: https://blog.goo.ne.jp/oizumi-dojo/e/e375da08b7d87e78b1376d3df1c4a72a

*5:槍の軽さと、音がしっかり鳴るくらいの打突でないと有効でないので

*6:カウンター気味に2-3本打てたけど禁じ手の片手突きになっていたのでノーカン

*7:ステップを常用できるようになるのは遠そうなので、せめて二段構えにしなければ

殺陣 - 高瀬将嗣氏による2016年の講演メモ

殺陣師・アクション監督・映画監督など様々に活躍されていた高瀬将嗣氏が亡くなられました。

2016年2月20日川崎市東海道かわさき宿交流館で行われた氏の講演について、当時Facebookにしか上げていなかったことを思い出したので、改めてここに貼ります。

f:id:nowsprinting:20200606083229j:plain

しっかりメモを取っていたわけでなく、あとから思い出して書いたもの、かつ、武術的な下地の話は(当然のこととして)スルーしていて、殺陣・技斗(擬斗)に関する部分しか残っていないのはご了承ください。

ちなみに早めに会場入りして、最前列かぶりつきで拝聴しました。

殺陣・擬斗・技斗

歌舞伎の言葉では「立廻り」。歌舞伎用語の「殺陣」は集団での立廻りを指す言葉だったが「立」の音をとって「たて」と呼ぶようになった。

「擬斗」という言葉を生み出したのは坪内逍遥。その後、戦後GHQによって時代劇・殺陣が禁止されていたとき、「擬斗」と呼ぶことで時代劇を作るようになった。

「技斗」は先代の高瀬将敏氏が作った言葉。時代劇に限らず現代劇でも使え、かつフェイクを表す「擬」でなく「演技」の「技」を当てた。

殺陣師

先代の高瀬将敏氏は日活の殺陣師だったが、71年を境に撮影所が殺陣師を抱えなくなりフリーに。現在の日本では、お抱え殺陣師は太秦に4名いるのみ。フリーの殺陣師も、映像・演劇・ヒーローショーを含めても全国に200名くらいしかいないはず。

氏の道場では、原則竹光を使用。竹光は本身の半分くらいの重量。重さを知るためにまれに真剣(模造刀かも?)を持つことはある。 相手の刃を刃で受けることは無いが、それでも当たったときのため刃側をコーティングしてある。

尾上松之助は真剣(刃引きはしてあるはず)で歌舞伎を活かした殺陣を、阪東妻三郎は竹光で軽快な殺陣を演じた。

斬られかた

斬られ方に「グー」「チョキ」「パー」。グーは突かれたりして屈する、チョキは身をよじる、パーはのけぞる。これでバリエーションをつける。

倒れるときは、必ず右半身が下。逆向きに倒れると鞘を痛める恐れがあり、小道具さんに怒られる。

安全について。 突きは鎖骨より下。万一の事故防止のため。 正眼から相手の刀を払うときも腕を伸ばさないで引き付けて払う。 振りかぶりは上にでなく、介者剣術のように(兜を被っているとまっすぐ振りかぶれないので)外から巻くように振りかぶる。

実演その他

お弟子さん・お客さんも交えて、技斗の実演や、真剣での試し斬り実演などがありました。 また上記以外にも色々お話されていて、現代劇で車にはねられるスタントでは時速何キロで当たっているかなど*1*2

この講演の約1年前の『秘伝』誌が殺陣特集で、高瀬氏の記事もありました。質疑応答の時間にこのことを質問したのですが、雑誌に何を話したかもう覚えていないな、と笑っておられたことを覚えています。

改めて、氏のご冥福をお祈りします。

秘伝 2015年 04 月号

秘伝 2015年 04 月号

  • 発売日: 2015/03/14
  • メディア: 雑誌

*1:これを書いている2020年時点でうろ覚えなのですが、時速10キロだったはず。それ以上早くなるとプロのスタントマンでも怪我するとのこと

*2:怪我といえば、スタントマンの労災保障について活動しておられました

盛松芬老師「太極十三槍」セミナー

黒竜江省ハルピン市武術協会副主席の盛松芬老師による「楊式太極十三槍」のセミナーに行ってきました。ゲストに趙玉祥老師。主催は太極健身学舎の伊与久先生。

盛松芬老師、ここしばらく日本に滞在されているとこのことで今回のセミナー開催の運びになったとのこと。とても明るく面白い方で、練習中も気軽に声をかけて教えてくださったり、八卦刀や剣の演舞を見せてくださったり、記念撮影では集合写真だけのはずが色々ポーズをつけての撮影会になってしまうなど、とても楽しいセミナーでした。

楊式太極十三槍

楊式太極門に伝わる槍術で、基本的な槍の操法を一連の流れで練習できるように整理された套路(型)です。YouTubeで検索すると動画がいくつか見つかりますが、1分強くらいの短い套路に色々詰まっています。

個々の操法はほぼ形意の槍術でも出てきたものなのですが、「拿」の槍把の位置が身体の横だったり*1、「攔」「拿」「扎」が必ずしもセットでなく、転回→拿→扎とか、はじめ戸惑うところもありました。 また、私レベルではまだまだ理解できていないのですが、形意の遣いかたと太極の遣いかたの差異もあり、とてもできたとは言えないものの、套路は今後も練習していこうと思います。

所感

会場は剣道場で天井も高く良い環境でしたが、参加者20名超ではさすがに結構な密度でした。しかし皆さん練度が高く、事故もなく、とても良いセミナーでした。

盛松芬老師は休憩もなしに繰り返し繰り返し、常にご自分で手本を示しながら教えていただき、また、所々でその技・操法の意味を交えていただく等、教え方としても大変ためになりました。

盛松芬老師・趙玉祥老師をはじめ、関係者・参加者の皆さん、ありがとうございました。おさらい会の開催、期待して待ってます!

参考

趙玉祥老師のDVD。槍の操法や、形意梅花槍の表演が収録されています。伊与久先生も出られていると懇親会で聞いたので見直さなければ。

趙玉祥老師 中国伝統武器術 [DVD]

趙玉祥老師 中国伝統武器術 [DVD]

*1:大槍で遣うことを念頭に置かれているのかも?

西洋甲冑勉強会に行ってきました

西洋甲冑勉強会・第1回*1に行ってきました。 「勉強会」と銘打たれていますが、昨年秋出版された書籍『西洋甲冑入門』をベースに著者自ら質疑応答&雑談するという、気楽な雰囲気のもの。

参加者も、絵描きさん・歴史好き・ヘヴィファイト競技者と様々、質問の方向性も様々で、とても楽しい会でした。

写真とイラストで見る西洋甲冑入門~三浦權利作品集~

写真とイラストで見る西洋甲冑入門~三浦權利作品集~

この書籍自体、とても奥深く複雑な「西洋甲冑」の世界に、まさに「入門」するための基礎知識が整理されて書かれたものです。内容のレベル的位置づけは著者様のブログエントリにも書かれています。

armourer.blog64.fc2.com

以下、時系列でなく、ある程度カテゴライズしたメモ書きです。書籍の内容を前提で書いていますので、説明の足りないところはぜひ書籍を買って合わせてご覧ください。

紹介されている鎧について

掲載されている中で、馬上鎧のウェイトが歩兵鎧に比べて大きいことについて。

  • 数としては、粗末な歩兵鎧はたくさん作られたが、現存していないか、美術館のバックヤードに眠っている
    • 粗末なものは、鉄材として潰された。当時鋼鉄は高価であり(現在のチタンくらい?)、鎧の制作費の半分ほどが材料費だった
    • 残っていても、痛みなどを修繕して展示するほどの集客力もないため死蔵される
  • 貴族・騎士が高価な鎧を作り、戦場および馬上槍トーナメントで使用したものが現存している
  • 戦場用・トーナメント用はコンバーチブルであり、パーツを付け替えて同じものを着用するのが多かった

槍掛(ランスレスト)

p.13の写真などの右胸についている槍掛の使いかたについて。

  • 馬上槍は時代とともに長くなり、十字軍末期に3〜4mほどになるとかなり重かった
  • 右脇に抱え持った状態で右胸の槍掛に置くことで胴鎧に重さを預けることができ(腋窩と槍掛の二点で支える)、右手でコントロールできた
  • 槍の穂先は左前を向く。相手とは右側通行ですれ違い、左の敵を攻撃する
  • 当初は左手の盾に切り欠きがあり、そこに乗せたりもした
  • 16世紀ごろには槍掛が当たり前に
  • 現存する鎧のうち、半数ほどは紛失して取り付け穴だけ残っている

p.52の右側の絵、右肘の後ろに描かれてるものは何か。

  • 槍掛の補助具。槍掛から後ろに70cmくらい突き出ている。腋窩でなく、ここと槍掛の二点で槍を支える
  • この鎧は馬上槍競技専用で、15kgくらいの折れない槍を使うレギュレーション
  • その他、安全性向上のため非常に厚いプレートで、左腕などは固定されて動かせない

マクシミリアン式甲冑

  • このタイプが作られたのは、1505〜1525年の20年間くらいしかない。昆虫でいうとサナギのような期間
  • 近接武器に対する防御力のピーク
  • 1520年ごろ銃が量産され(イタリア戦争後期*2)、鎧はルネサンス式が主流となる
  • これに並行して兜もアーメットからバーゴネットに移り変わる
    • 近接戦闘が減り、広い視界が必要となった
    • しかし、顔の防御と広い視界はトレードオフなので、その後もトレンドは繰り返された

青み付け(ブルーイング)

p.39左上のような青み付けについて

  • 現代(19世紀以降)は、薬品を塗って焼くことでキレイな青になる。車の改造マフラーなどに見られる。
  • 当時はヒーティング(炙る)だけで青くしていた
    • 青になる特定の温度で炙る技術が必要だった
  • 金メッキには、金アマルガム法が使われた。単に金箔を貼っても削れてしまうため、金と水銀を混ぜて塗って加熱し水銀を飛ばすことで定着させる
    • 職人は水銀中毒で死ぬ
  • 意味は装飾だけで、性能には関係ない
  • 青み付けおよび金メッキは大変流行し、当時ほぼ全ての鎧が青+金だった
    • 酸化皮膜は劣化・変色するので、現存するものは落として地金の色になっている

装飾について

  • ルネサンス期は鎧の性能面はすでに打ち止めで、装飾面にのみ技術が向けられた
    • むしろメカニズムを簡略化して、例えば草摺を1枚の板で済ませる代わり、装飾で4枚に見せたり
  • 青み付け・金メッキ以外にも例えば、
    • エッチング
    • パーツの縁取りを細かい銀のリベットで行なう
  • 装飾のすごいものも、飾るためでなく戦場やトーナメントで使われたらしい。他人に見せて自慢する文化。
  • p.53のパレード用甲冑は「鉄でできた服」でありパレード専用。とても薄く、現存しているものはすり減って穴が空くくらい
  • とは言え、マクシミリアン式以前も実用性のみを求めていたわけではない。それでは爆弾処理班のような鎧になっていたはず

手甲(ガントレット)の変遷

  • メイル*3の時代は、手袋状のメイル
  • コート・オブ・プレート(小札)の要領で、手の甲から始まって少しづつ指までプレートで保護するようになったのではないか
  • ゴシック式(ドイツ)では5本指
  • 15世紀初頭はミトン状のものが主流。防御力はこちらのほうが優れている
  • ルネサンス期には銃などを扱う必要性もあり再び5本指に

兜の鶏冠

  • 1枚の板金から打ち出していた時代、鶏冠を大きくすると薄く脆くなるため、職人の技術を誇示する意図があり大きくなっていったと思われる
  • アーメットでは可動式の面頬など前面の重量が大きくなるが、鶏冠が大きく後頭部方向に貼り出すことでカウンターウエイトとなりバランスが取れていた*4
    • どこまで意図されたものかはわからないが、結果的にそうなった

肩当

p.6左の写真などで首鎧から上向きに延びている棒状の部品は何か(冠板ではない)

  • 首鎧に棒状の部品、肩当に穴が開いており、これをはめて接合した
  • ゴシック式以前は革紐などで固定していた

肩当(上腕部)の構造について

  • 上腕部を保護する部分はプレート4枚をつなげている(写真は15世紀後期を想定した作例)
    • 正面側(写真右方向)は収縮する必要があるので革でつないである
    • 背中側(写真左方向)は収縮しなくていいのでリベットで止まっている。ただし、ある程度の可動域のあるスライディングリベット
    • すべて革だとめくれてしまうが、この構造であればめくれない

肩当の外側肩当の内側
肩当(左上腕部)

情報収集について

  • 日本国内は歴史的なものはほぼ流通してない。実物を入手したいならインターネットオークションなど。ただし高価
  • ネット検索するときは、辞典にある正式名称を使うことでノイズを避ける
    • 英語よりも、その時代のその国の言葉で検索するのが最も一次情報に近付けるはず
    • 書籍のp.56-57に表がある
  • 研究が進んだのは、インターネットおよびSNSが使われだしたここ5〜10年なので、記事の書かれた日付は重要
  • 基礎から学んでいく、という方式は、この分野では情報が膨大なので迷子になりやすい。まず求めているものをピンポイントで見つけ、それが理解できないならば、少しやさしく書いてある文献を探す、というアプローチがよいのではないか。最低限の知識は『西洋甲冑入門』で得られるはず
  • 映画などでは考証の正しいものは特に思いつかない。それが悪いわけではなく、娯楽なので正しいことが良いわけではない
    • 『ROCK YOU!』では、首鎧をつけてないのが気になって仕方なかった

ロック・ユー! [Blu-ray]

ロック・ユー! [Blu-ray]

所感

『西洋甲冑入門』はページの都合もあって掲載できた情報は限られたということもあり、参加者の「そこからか」レベルの質問(当然、私も含みます)にも丁寧に回答していただき、あっと言う間に3時間が過ぎました。

一口に「入門」と言っても難しく、私の本業であるソフトウェアの世界でも「入門」本はまさに玉石混淆ですが、西洋甲冑という広く深い分野でこのサイズにまとまっている本書が、改めて良い構成・ボリュームになっていることを実感しました。

その上で、書籍で完結するのではなく、こういった勉強会で色々質問できる機会をいただけるというのは大変ありがたいことです*5

5月3日に第2回も予定されていますので、ご興味を持たれた方はぜひ。私も行きたいけどまだ微妙。 armourer.blog64.fc2.com

また、連休中にこんなイベントもやるそうです。 armourer.blog64.fc2.com

関連

フルカラー改訂増補版 西洋甲冑 ポーズ&アクション集

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図説 西洋甲冑武器事典

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*1:昨年『出版記念・雑談&勉強会』が開催されているので、通算2回目?

*2:ご指摘により修正しました

*3:チェーンメイル、メイルアーマーなどとも呼ばれますが、正しい表現ではないようなので。詳しくは書籍とか参照。

*4:VRヘッドマウントディスプレイのような話

*5:次に本業で入門書を書く機会があったら真似したい

形意梅花槍 講習会

2/3に開催された『形意梅花槍<限定公開>講習会IN文京』に参加してきました。山西派車氏形意門正宗・趙玉祥老師伝の梅花槍の講習会で、主催は旺龍堂の小幡師。

昨年参加させていただいた『形意五行槍』は5種類の槍の操法でしたが、今回の梅花槍は長めの套路(型)です。限定公開*1ということで、参加者は過去の講習会で梅花槍を習ったことのある方がほとんど(というか私以外…)でした。

nowsprinting-ma.hatenablog.com

基礎練習

まず、基礎の基礎である「攔」「拿」「扎」から、槍を身体の横で回転させる「五花*2」や、槍把を前に送って背後を刺す「穿槍」という操法を練習。

これらは套路の中に出てくるもので、ウォーミングアップも兼ねてという感じで。

形意梅花槍

どのような套路かはYoutubeの動画を見ていただければわかるのですが、いただいた資料では50手。基本的な技や形意五行槍の技の組み合わせなのですが、そう簡単には順番すら覚えられず。

途中何度か「五花」による技のつなぎがあるのと、後ろを突く攻撃、相手の足への攻撃が多いと感じました。 が、他の門派の套路を知らないので、槍とはこういうものであって形意梅花槍の特徴ではないかも知れません。小幡師も「そもそも長柄の武器は足を狙うものだ」と仰られていました。

その他、薙いだり、上から叩き切ったり(劈)、柄の側で叩いたりと、多彩な操法が練り込まれていてとても面白く、また(槍が日常的にある前提で)とても実用的な套路という印象。

所感

套路のボリュームは八卦*3とほぼ同じ(やや少なめ?)に感じましたが、今回は時間が短いこともあり、五行槍を練習してなかったらついて行けなかったと思います。改めて、今回は<限定公開>なのに納得。

武器、特に長モノは習える機会も少なく、あまり人目につかないように(通報されないように!)練習するのも一苦労です。しかし、身体で振る、腰・背中を使う、背面の筋肉(伸筋)で扱う、手の内を柔らかく使う、といったことを身につけるのにとても良いと感じています。

槍の扱いは、半年ほど前にはじめて槍を扱ったときに比べれば身体で振れるようになってきた感はあります。でも、まだまだ槍に勁を通すまで行かず、先は長いです。

参考

小幡師による形意梅花槍の動画

www.youtube.com

小幡師の師である趙玉祥老師のDVD。梅花槍の表演が収録されています。

趙玉祥老師 中国伝統武器術 [DVD]

趙玉祥老師 中国伝統武器術 [DVD]

拳児』の外伝。李書文なので八極拳ですが。

*1:今回は場所確保の関係で短時間なので限定としたそうなので、いつかまた限定でない講習会は開催されるはず

*2:「舞花」と音が同じ(Wǔ huā)なのですが梅花槍ではこちらの字をあてているそうです。梅花にちなんで「五花」なのか、逆に、五花を多用するから「梅花」槍なのかも知れません。

*3:ブログに書いてなかったことに気づきましたが、同様に1日がかりの特別講習会がありました

『武蔵流剣術』DVDフォローアップ体験会に行ってきました

10/28に開催された、高無宝良先生の『高無宝良 武蔵流剣術 - 宮本武蔵の二刀流 実技とその変遷』DVDフォローアップ体験会に行ってきました。

DVDは今年5月に発売された、二天一流および二天流の技法、コンセプト、稽古方法などを収録されたものです。今回はその内容を実際に体験できる*1という貴重な会でした。

DVDについてはレビューを書いているので、こちらも参照してください。

nowsprinting-ma.hatenablog.com

体験会の流れ

先のレビューの通り、このDVDでは型の紹介から入るのではなく、二刀で戦う上でのコンセプトとしてまず「十字受」の技法を紹介し、そのバリエーションや受けからの変化を中心に据えた構成になっています。

従って体験会も、ウォームアップとして素振りと歩法の後、十字受とそのバリエーションを二人一組で稽古するという流れでした。

また、これは途中でお話されたのですが、相手の太刀筋や間合い(拍子・タイミングと同義)によって色々と応じ方はあるが、判断*2つかない場合は正面で十字受してそのまま押しきる、とのこと。 この、"other"の選択肢を基礎として最初に稽古するのはとても理にかなっていると思います。

十字受

DVD収録順とは異なり、まず二天流の十字受から。これは武蔵の壮年期の技であり、後年の二天一流の技に比べて身体を大きく使うものです。その後、二天一流の"静かな"十字受に入りましたが、基本的な身体の使いかたは同じであることを強調されていました。

左右の刀で相手の攻撃を"体の中心で"受けるというのは意外と難しいのですが*3、中心で受けることができてはじめて、そこから適切な変化ができるわけです。かなり鍛錬し応えのある技だと感じました。

ちなみに、たまたま袈裟斬りに対する十字受のときに高無先生に相手をしていただいたのですが、私の袈裟斬りを先生がぴったりと中心で受け止められたときの感覚がとにかく「すごい」の一言で、とても良い経験をさせていただきました。

越す拍子、付ける拍子

「越す拍子」は、遠い間合いで相手が自分の刀を打払いにくるという想定で、この想定自体は英信流の組太刀にもありますが、これを外して下向きに十字受するのは二刀特有で新鮮でした。とにかくこのシチュエーションで体をかわしたり入身になったりしないのは二刀ならではでしょう。

また「付ける拍子」は、通常の下段ではなく、両刀を下ろした構え(武蔵の肖像画にあるあれ)によって起こりうる近い間合いだと思うのですが、これも非常に二刀の特性が出ている技で面白いものでした。

突きに対する十字受

最後に、一人一回ずつでしたが、槍による突きを十字受して詰めるという体験もできました。基本通りの十字受で突きにも対処できるというものですが、突きを身体で避けてしまうとかえって引き込んでしまうなど、メンタルが試される部分もありそうでした。

所感

DVDのコンセプトもとても良いものでしたが、さらに今回のような体験会が開催されるのは大変ありがたく、ぜひさらに反響があって第二回も企画されると嬉しいな、と思いこれを書いています。

全体に良い雰囲気でしたし、懇親会でも色々な流派の方と武術の話ができ、とてもとても有意義な会でした。高無先生ならびに関係者、参加者の皆様、ありがとうございました。

*1:しかもDVD購入者にはわずか¥1,000で!

*2:頭で考えて判断するわけではないのですが、いい表現がなかったのでこのままで

*3:ひとつ言い訳をすると、持参した小刀が二刀で使うものより短かったため中心で捉えるのがより難しかった、というのはありますが、言い訳。

形意五行槍 特別講習会

9/16に開催された『形意五行槍 特別講習会IN文京』に参加してきました。主催は旺龍堂の小幡師。

形意拳(Xing Yi Quan)の開祖、姫際可(Ji Jike)は槍の名手で、形意拳の代表的な技である『五行拳』は槍術をベースに作られているそうです。その槍術が本講習会で教えて頂いた『形意五行槍』とのこと。

攔・拿・扎

五行槍に先立って、槍の基本的な操法の練習と、「攔」「拿」「扎」という、内転・外転の巻き落としから突き込む動作を練習。

「攔」「拿」「扎」は中国槍術には共通する動作のようですが、形意拳内家拳なので、大きな動作でなく、内力を使った(見た目は)コンパクトな「攔」「拿」を行なうのが本来とのこと。今回は初心者向けなので、基礎的な動作で教えていただきました。

立ち方や歩法は形意五行拳とほぼ同じらしく、私は見よう見まねで*1

形意五行槍

五行槍は套路ではなく「劈槍」「崩槍」「鑽槍」「炮槍」「横槍」という5種の槍の操法で、それぞれ若干のバリエーションがあります。

それぞれ順番に、対応する形意五行拳の紹介*2に続いて槍の操法の解説、そして練習という流れで進んでいきました。個々の技だけでなく、前に進んで折り返すときの「回身法」もそれぞれに決まっており、たった5種類とは言えないボリュームでした。

まず長柄の武器をちゃんと扱う(腕力でなく体幹で扱う)ことが難しく、さらに「炮槍」の穂先を回転させる動作などはとても一朝一夕ではできないものです。

人数も多かったので、練習は3班に分かれて順番に。つまり見取り稽古の余裕があったのですが、槍の扱いになかなか慣れないこともあって順番を通すだけで精一杯。

所感

小幡師は、武器術に共通する事項として、丹田・腰の気を充実・安定させ、他は柔らかく使うということを強調されていました。

私、刀より重いものを振り回したことが無かったもので、(さすがに槍に振り回されることは無いものの)腕力で振っている感触がありました。より良い身体の使いかたを身につけるためにも、しばらく公園などで稽古していこうと思います。また、そんな目的で練るのにちょうど良いボリューム*3であるように思いました。

書き忘れていたので追記。純粋に、武器術楽しいです。長柄を振り回すの楽しいです。

参考

小幡師による形意五行槍の動画

www.youtube.com

小幡師の師である趙玉祥老師のDVD。内家拳の「攔」「拿」「扎」についてや、梅花槍の表演が収録されています。

趙玉祥老師 中国伝統武器術 [DVD]

趙玉祥老師 中国伝統武器術 [DVD]

*1:他の参加者の方は形意拳経験者っぽい方が多かった模様。私は全くの素人です

*2:他の門派の形意拳を学んでいる方がいることもあり、小幡師の山西派車氏形意拳の技を比較のために表演

*3:技の種類という意味です。奥は深そうなので…。