インド大使館で行われたイベント「ダイナミック・カラリパヤットゥ」で、インド伝統武術「カラリパヤットゥ」の演武(表演)を拝見してきました。
最近、インド武術といえば「マハーラージャ・カルーリカ」の名前を聞きますが、"カラリ"は"カルーリカ"の訛り、"マハーラージャ"は王の意、ということで、王族に伝わったカラリの流派でしょうか。
カラリパヤットゥは南インドのケーララ州が発祥とされる武術ですが、大きくは北部・中部・南部で流派が異なり、さらにケーララ州だけで500以上の道場があるとのこと。今回拝見したのは、その中で「CVNカラリ」とされる流派。
演武に先立ち、CVNカラリスタジオジャパンの浅見千鶴子先生からカラリパヤットゥについての紹介。
カラリパヤットゥの歴史
マラヤーラム語*1で"カラリ"は訓練場所*2、"パヤットゥ"は武術や訓練のこと。
神話的には、パラシュラーマがシヴァ神から学んだ武術を伝承したとされる。ちなみにケーララ州はそのラーマがクシャトリヤ殺戮の後で海に投げた斧("パラシュ"は斧の意)のところの海水が引いてできた土地とか。
歴史的には、
- 4世紀ごろ、剣や槍を扱う武術として生まれる
- 7〜11世紀、ケーララは小国が乱立して戦乱状態であり、ここで武術として発展
- 12 世紀、ナーヤルというカーストに特権として与えられ、ここで体系化
- 16〜18世紀、広まる
- 19世紀、イギリスの支配、カラリパヤットゥ禁止令
- 1947年にインド独立。C.V.ナーラーヤナ・ナーヤル(C.V.ナラヤナン・ナイール)により復興される(これが"CVNカラリ")
そして今に至るそうです。カラリパヤットゥが菩提達磨によって嵩山少林寺に伝わり、そこで少林拳になった(もしくは影響を与えた)という説がありますが、それが事実なら5〜6世紀の話なので、かなり初期の状態の技が伝わったことになりますね。
カラリパヤットゥの技術体系
以下の段階に応じて、学んでいく
1. メイターリ
身体訓練。キック、8種の動物のポーズ(象、馬、獅子、猪、蛇、鶏、猫、魚)、その組み合わせ。
キックの動画があったので(4/22追記)
動物のポーズも(4/22追記)
2. コールターリ
木製武器。ロングスティック(4〜5尺くらい)が基本。次いで、ショートスティック、オッタ(曲刀)、ガダ(Gada/鉾)
- オッタは、演武では牛の角のようなものを使用。これは急所を突く動作があり、その過程で解剖学を学ぶことになる。
- ガダは、体の大きい人だけ学ぶ。
3. アンカターリ
鉄製武器。カッターラ(短剣)、盾と剣、槍、ウルミ(Urumi/曲剣)
- ウルミは、ペラペラで丸まる剣。ムチのように使う(映画"Aśoka"で動画検索して見るのがわかりやすそう)。
4. ウェルムカイ
素手での格闘技術。
カラリ(訓練場所)について
- カラリ(訓練場所)は半地下が多い。イギリス統治時代に隠れて訓練した名残という説。
- 各自マイボトルにごま油を持参。練習前にオイルマッサージ
- 治療院を兼ねている
演武
演武は、(恐らく)メイターリから。キックは、かなり高い蹴りをコンパクトに出す印象。型というより、ブラジル体操のように(伝わりますか?)歩きながら決まった蹴りを出していく。開脚できないとできないし、かなりバランスも養われていそう。
二人組でオッタの組太刀。ニディーシュ・カリンビル先生と浅見千鶴子先生による演武は、古武道の演武でありがちなゆっくりの示し合わせでなく、ちゃんとしたスピードと、しっかり打ち合わせていることがわかるもの。
ロングスティック。一本での振り、二本での振り。振りというか振り回し。客席まで風圧が来るくらいのスピード。続いて組太刀。これもスピードと威力のあるもので、パターンがわかっていても少し手元が狂ったら手を打って怪我しそうな勢い。攻撃を受けつつ(八卦掌のように)円を描いて下がっていくところなど、とても難易度高いはず。 なお、たまたま演舞した型がそうなのかも知れませんが、突き技は無く、打ちのみ。打ち方・受け方のバリエーションは多い印象(脚部狙いとか)。
最後に、ニディーシュ・カリンビル先生によるウルミの演武。これも早い。床が削れてました。
所感
伝統武術というものは形骸化したりスポーツ化したり色々厳しいものなのですが、今日拝見したカラリパヤットゥの動きはすごかったです。 格闘技なのか、武術なのか、というと色々(人によって)定義もあると思うので同列にはできませんが、「型」というものが、実用的な技と身体を鍛錬する意味の二面あるとして、少なくとも鍛錬の面で十分な効果を上げていることは見てわかります。
ちなみに、ニディーシュ・カリンビル先生のふくらはぎと前腕の細さにおどろきました。いや決して普通に細いわけではないし、体幹部の筋肉のつきは武術家のそれなのですが、あれだけの動き、特に武器をあれだけ扱う前腕にしては、ということです。
技としては、やはり蹴りが印象に残りました。足幅も広く、低い姿勢も多用し、中国武術でいうと北派の印象。
短い時間でしたが、大変良い機会をいただきました。ありがとうございました。
参考
究極の柔軟性としなやかな蹴り カラリパヤット入門 [DVD]
- 出版社/メーカー: BABジャパン
- 発売日: 2015/04/28
- メディア: DVD
- この商品を含むブログを見る