斬らなイカ?

武術・武道・日本刀とか。

『高無宝良 武蔵流剣術 - 宮本武蔵の二刀流 実技とその変遷』レビュー

高無宝良先生のDVD『高無宝良 武蔵流剣術 - 宮本武蔵二刀流 実技とその変遷』が届いたので、早速拝見しました。

宮本武蔵といえば二刀流で有名ですが、その流派名は伝わった(教えた)時期によって「二天一流」「二天流」「円明流」などと呼び名が異なり、また名前だけでなく技も異なるようです。

高無先生は、武蔵が最晩年に肥後藩で伝えた「二天一流」と、それ以前に小倉藩で伝えた「二天流」の両方を習得されており、このDVDでは両者の差異(変化)も含めて紹介されています。

古流剣術というと「型」があり、古武道大会などでの演武や、この種のDVDでは型の紹介が中心になりがちです。しかし、本DVDでは二刀で戦う上でのコンセプトとしてまず「十字受」の技法を紹介し、そのバリエーションや受けからの変化を中心に据えた構成になっています。

十字受

十字受とは、右手に大刀、左手に小刀を持ち、眼前に物打ちあたりを交差させて相手の刀を受けるというものです。

まず、これを確実に、左右均等に体の中心で受けられることが大前提。その上で、左右いずれか一刀で受流して逆の手で攻撃する方法、遠い間合いから先を取る「付ける拍子」、逆に後の後で攻撃する「越す拍子」、袈裟斬りや横薙ぎ、突きへの対処、といった応用が紹介されています。

ここまででほぼ2/3が割かれていますが、十字受という"技"ではなく、どの間合いでどう戦うかという"コンセプト"の基準になっていることが理解できるはずです。

二天一流山東派 二刀の型

ここで、型(組太刀)を三本紹介されています。前述の十字受がベースになっていることがわかるはず。

素振り

武蔵は、刀は片手で扱えなければならず、その鍛錬のための二刀流である、といった言葉を残しています*1。それを実践するための二刀での素振り稽古法について紹介されています。

例えば、手を返して斬り下ろし、斬り上げを交互にしたり、それを左右同時に行なう、また、左右互い違いに行なうといったもの。

フィリピン武術のカリ(アーニス/エスクリマ)でも、基本トレーニングとして左右の手にバストン(スティック)を持って練習しますが、これと似通った印象を持ちました。

歩み

これも『五輪書』にある、足の踏み方、歩法についての解説と、その稽古法が紹介されています。

ほとんどの古武道・剣術での歩法は同じもの(剣道とは異なります)だと思うのですが、前述の十字受から押していく、また攻撃まで歩みを止めないという辺りは特徴的なのではないでしょうか。

所感

剣術をやっている方はどこかのタイミングでは『五輪書』は読むと思うのですが、二刀の稽古までする機会は無いのではないでしょうか(私はありませんでした)。

刀を片手で扱うことに関しては、自流に片手斬りの技があることもあり*2、鍛錬してきましたが、斬るだけでなく自在に扱えるように本DVDの稽古法も取り入れてみようと思いました。

単に「他流派のDVD」ではなく、体の鍛錬法なども踏まえて『五輪書』の延長として見るDVDとしてお勧めできるものです。

ただひとつ難を言えば、高無先生が話される中で重要なキーワードにはテロップが欲しかったところ。

*1:出典引くの割愛

*2:人によって重要視されない方もいらっしゃいますが