『イップ・マン 継承』(原題:葉問3)の日本公開がはじまったので、詠春拳をかじっている者*1の視点からいくつか。 ネタバレも若干あるかもしれないので、気になる方はまず劇場へ!
史実との違い
史実と違うことを批判するつもりはなく、ただメモ程度に。
葉問(イップ・マン)師は香港には単身で渡っており、永成(ウィンシン)さんは佛山で亡くなっています*2。その後、ご子息の準(チュン)師、正(チン)師が香港に移ったそうです。
ちなみに夫婦別姓なので"張"永成ですね。パンフレットで張天志(チャン・ティンチー)と並べて書かれるとそっちの家族のように見えますが。
師匠について
イップ師の師匠は陳華順(チェン・ホワシュン)師、その師匠は梁贊(リョン・チャン)師です。そしてマックス・チャン演ずる張天志(チャン・ティンチー)も、梁贊師の孫弟子であると語られています。
梁贊師までは武館(道場)を開いておらず、従って弟子の数は限られます。上記の陳華順師、ご自身のご子息、また晩年に故郷の古勞鎮*3にて弟子を取ったそうで、この話に沿うのであれば、ティンチーは古勞鎮での弟子の弟子ということになりそうです*4。
ちなみに、梁贊師は『ユン・ピョウinドラ息子カンフー』(原題:敗家仔)でユン・ピョウが演ずるワン・チャンのモデルです。
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また、梁贊師の次男、梁壁(リョン・ピック)師は香港に住んでおり、イップ師が若い頃に香港に留学した際、ピック師に師事したと言われています。このあたりは『イップ・マン 誕生』*5で語られています。
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ちなみに『イップ・マン 誕生』はキャストが面白いことになっていておすすめです。『イップ・マン 序章』『葉問』のカム師匠を演じたルイス・ファンが重要な脇役として。また、『序章』ではカム師匠の手下、『葉問』ではホン師匠(サモ・ハン)の弟子ワイケイを演じたデニス・トーがイップ・マン師を演じています。
さらにサモ・ハンが師匠である陳華順、その一番弟子がユン・ピョウという豪華な布陣。そしてピック師を演ずるのは、イップ師のご子息である葉準師ご本人という。
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師弟筋でもうひとつ。ブルース・リーがイップ師に師事したのは、12歳から5年間だそうです。18歳でシアトルに移っています。このあたりは『ブルース・リー マイブラザー』おすすめ。
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本作の舞台を永成さんの没年1960年とすると、ブルース・リーは20歳。年齢は合わせた感じでしょうか*6。
アクション
今回の対戦相手(チンピラを除く)は、ムエタイ、ボクシング(マイク・タイソン)、そして詠春拳(マックス・チャン)。どこかで「他流派と戦って倒すという話は色々めんどくさいらしい」と書かれていましたが、確かにその辺の苦労がありそうですね。
ムエタイ戦
ムエタイ戦の評判がいいですし、確かに見応えはありました。が。そもそも短橋狭馬*7で接近戦を得意としている詠春拳に、わざわざここで襲うとか頭悪いのでは??? というのが第一印象で……。アクションだけでなくいいシーンなんですけどね。
ちなみにムエタイの人、
トニー・ジャーに似てるなぁと思ったら本当にトニーのスタントダブルを演じていたSarut Khanwilai というお方
だそうです。
マイク・タイソン戦
ラスボスでなくーということもあり、勝敗をつけない形ですが、いいアイデアだったと思います。 ちなみに終盤の、片足を伸ばしたまま腰を落とす構え、あれは(私が知る範囲の)詠春拳の型にはありません。その手前、両手を腰の後ろで支えるように伸ばす形はありますが、これは後ろから掴まれたときの対処技です。
マックス・チャン戦
一言で言えば”詠春拳フルコース”でした。詠春拳には徒手格闘のほかに武器術が2つあり、それが六點(点)半棍と八斬刀です。これまでも武器として竹竿や包丁で披露されていましたが、それが今回同門対決としてきっちり描かれたわけです。
六點半棍(ろくてんはんこん / Luk Dim Boon Kwun)は、船を操る竿を武器化したものと言われており、名前の由来は技(操法)が6.5種類だからだそうです。詠春拳の初期には無かったもので、歩法も異なります。
あの長さなのでかなり重く(とにかく重心が遠い)、さんざん日本刀を振ってきている私でも片手で自在に振り回せるには至っていません。
八斬刀(はちざんとう / Baat Cham Dao)は、胡蝶刀とも呼ばれる片刃の刃物で、その操法は徒手の套路(型)にも含まれています。鐔の部分の返しで相手の武器を絡めたり、ここを使って逆手に持ち替えたりします(これは本作では出てこなかった扱いかた)。
八斬刀がメイン武器な映画といえば『ファイナル・マスター』(原題:師父)。邦題はネタバレ感ありますが。
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最後に素手での対決。ここもちゃんと普通に見応えがある(はず)ながら、詠春拳の特徴である*8、黐手、聴勁、寸勁が盛り込まれていてお腹いっぱいです。
黐手(チーサオ)は、お互いに前腕を相手のそれにくっつけ(これが"黐")て肌感覚で相手の動きを知覚する稽古方法です。対戦中二度ほどこの状態になっていますね。
聴勁(ティンジン)は、視力を奪われても相手の動きを知覚する技術。黐手の延長線上にある技術のはず(私はいつ到達できるやら)。
寸勁はブルース・リーのワンインチパンチとして有名ですが、ごく短い距離で威力の強いパンチを打てる技術。
このあたりの撮影のネタバレを含む話はこの記事が面白かったのでおすすめ。
イップ・マン 継承、日本公開記念小ネタその1-ドニー・イェン | ケイコママのバクダン酒場
マックス・チャン
本作で張天志(ティンチー)を演じているマックス・チャン。『ドラゴン×マッハ!』(原題:SPL2)の獄長であり、『グランド・マスター』(原題:一代宗師)のマーサンであり。
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葉問スピンオフの『葉問系列:張天志』、『パシフィック・リム』続編への出演も決まっているとのこと。今年43歳*9と遅咲きながら今後が楽しみです。
まとめ
アクションだけでなく、ストーリーもとてもうまく出来ていて、良い映画です。3作目が良い出来のシリーズものってなかなか無いのでは。『葉問4』の製作が決まったそうですが、現時点では期待より不安が大きいですね。アクションのネタとしてはもう、海外武術勢とかブルース・リーと戦わせるとか、かな……。
日本では先に『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』が公開されたので、そこでドニーさんファンになって本作も見る、という方も多いようで。これを機にドニーさん人気、アクション映画人気が出たら嬉しいですね。
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